当工房は2024年9月に設立満30年になります。
私、仁平幸春の創作仕事は1994年29歳での独立から始まりました。それは色々な事情から、かなりのマイナススタートになりました。学歴も修行歴も所属も受賞歴もお金も人脈も何も無い「本当に何も無い」私ですから、愚痴を書けば丸一年毎日書き続けられるような経験を沢山しました。
しかし、それ以上にこんな私の創作にご支援いただき30年続けられた事が本当に幸運であるとしみじみ感じ入ります。
私は常々「社会的存在である人間が生み出す創作は、作者が作品を制作しただけでは成立しない。それを受け止めて下さる方々がいて初めて成立する。特に新しい創作は、作者と受け手の両者で作り出すものである」と申しておりますが、それを本当に実感いたします。本当にありがたく思います。ここに30年の感謝の御礼を申し上げます。
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コロナ禍も過ぎたようで実際には今こそ強く影響を受けている業界が多いもので、フォリア工房はコロナ禍の始まった2020年ぐらいからご多分に漏れず非常に厳しく、特に去年の2023年は本当に辛い状況でした。それは現在も続いております。しかし、そこでフォリア工房は「当工房は何があってもこうあるべき」というプリンシプル(原理原則)を再確認し、それを言語化し崩さないようにしました。その中心にあるのは「何があっても自由な創作と自由な発言が出来る環境を自ら創出し続ける事」です。それを維持するのは大変困難ですが、しかしそれがフォリア工房のプリンシプルです。その辺りの内容は、仁平のnote に書いておりますので、ご興味を持たれた方は是非ご一読下さい。最近は少しでも広くフォリア工房の、そして仁平幸春の制作姿勢をお伝えしようという事でもう少し短い文章で構成する Threads も始めました。こちらもご一読下されば幸いです。
和装その他創作品の制作と流通、そして販売の際に問題だと感じる部分に必要な整地を当事者として行う事・・・そのあたりの問題も独立してから常に試行錯誤し実行して来ました。そのなかのひとつ、今まで不透明で不健全だった和装の販売価格の問題を少なくともフォリア作品に関する範囲だけでも改善しようと、かなりのリスクがありましたが「フォリアはフォリア作品の価格を公開する」という事を2023年に実現しました。それは多くの賛同を得ました。それについての詳細はこちらにあります。そしてこちらの記事にはその考えの背景を書いてあります。
後継者育成についても、当工房で出来る範囲の事はしており、弟子を受け入れるようになって25年程で、やり取りした人たちは100人を優に超え、実際に工房に通った人たちは30人程でしょうか、そのなかで「プロとして通用するレベルで仕上がった弟子」は、残念ながらひとりだけしか出せませんでした。それは工房内独立しフォリア工房の所属作家として活動している甲斐凡子です。
甲斐は、弟子入りしてから7年程修行し、29歳の時に工房内独立し、今年で独立7年目になります。2024年時点で計14年の業界歴になります。その間、毎日仕事場に通い制作をし一度もアルバイトなどで仕事を離れた事はなく他所からの金銭的支援を受けた事はありません。毎日朝から晩まで制作しているキャリアが14年という事です。単独の個展は5回程いたしまして、2024年3月には初めて銀座で個展を開催しました。展示会の作品は毎回ほぼ完売しており、本当にありがたく思います。
フォリア工房では「工房に所属している作家が現在は、仁平、甲斐の二人。今後も増やす予定」という形で運営しておりますので、甲斐単独の個展も可能です。甲斐の個展をお考えの方は、お気軽にお問い合わせ下さい。
弟子は一時期中国四川省の女性が通って来ていました。中東の人からも問い合わせが来たりしますので、日本の伝統工芸の修行はもう日本だけの話では無くなって来ているのだなあと感じ入ります。その中国の女性の修行には「文化交流ビザ」が必要になりましたが、フォリア工房に日本で初めて和装部門での「文化交流ビザ」が下りたのだそうです。それは大変嬉しく思いましたが、残念ながら彼女はコロナと家の事情で帰国せざるを得なくなり、工房での修行を続ける事が出来ませんでした。それは残念でしたが、弟子募集は続いております。弟子についての話題はこちらにあります。
弟子には「和装染色品の制作において最小限の制作環境と持ち物でほぼ全ての工程を自分ひとりで完結出来るシステム」を教えます。それはもちろん経営の事も含めての事です。必要とする最低限の制作環境は、名古屋帯がどうにか張れる部屋とキッチンと風呂場だけです。それなら都市部での制作も可能です。ひとりひとりがゲリラ戦のように個々で生き、時に仲間と連帯し、活発な制作活動をする。周りの状況の悪化に極力巻き込まれる事のない、単独で成り立たせる事の出来る技術と考え方を学びます。独立という事になってからは、工房を出てフォリアとは全く関係無く活動する、外で工房を構えつつフォリアを通じて作品を販売する、工房内独立を選び日常フォリア工房の仕事をしつつ自分の作品制作をする、色々なパターンで独立可能です。どれをチョイスしても工房が弟子をサポートするシステムを用意しています。
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どうにか続けて来られた30年、私はあと15年から20年はやりたいと思いますが、私が引退してもフォリア工房は弟子に引き継がれ、同じ制作姿勢で進めるように準備しております。
それはまだ先の話ですが、その時には新しい世代の人同士が連帯し、そしてさらにその先へつなげて行ってくれる・・・そんな事が実現出来れば幸甚です。私には個人的な師匠はおりませんが、日本の文化と伝統から多くをいただいて生活させていただいております。私がいただいた分は最低でも同じだけ、可能ならそれ以上にして後進に引き継ぐ、それが文化の健全な伝承だと考えています。そのような未来をつくるべく決意を新たに精進する所存です。
最後に再度、今までのご支援に御礼申し上げます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
フォリア 仁平幸春
ヘッダー画像は仁平幸春作の染額「循環」。蝶が種を運び、それが発芽し、花を咲かせ、実を結び、そしてそれをまた蝶が運び・・・と生命が循環して行く様子をひとつの画面に表したものです